娘の夫――あの人を見るたびに、どうしてこんなにも胸がざわめくのか、自分でもわかっていた。
そのざわめきが、義母としての感情ではないと気づいた頃には、もう手遅れだった。
あの冬の夜のことを忘れることができない。
正月の支度で疲れ切って、娘が台所に立つ音を背に、私はこたつに身を沈めていた。
お酒を少しだけ舐めた唇がじんわりと熱く、視界が霞む。
彼の指が、湯呑みを私の方へ押し出す――その指先が、ほんの一瞬、私の指に触れた。
火がつくような感覚。
ただそれだけのことで、体の奥がふっと揺れる。
彼の視線が、ゆっくりとこちらを映していた。
こたつの赤い光に照らされた瞳が、柔らかく、けれど逃げ場を持たなかった。
「お義母さん、顔…赤いですよ」
そう言って笑う声が、妙に低くて、まるで胸の奥で響いた。
喉の奥が渇き、返事が出来ない。
娘の背中が台所に見える。
その日常が、遠くに霞んでいく。
こたつの下、ふと動いた彼の膝が、私の膝にわずかに触れる。
避けようとすればできたのに、なぜか動けなかった。
その“触れそうで触れない距離”が、痛いほど甘かった。
一瞬、彼の手が私の膝に乗った。
布の上から伝わる微かな圧。
心臓の鼓動が、まるで全身に響いていた。
あの夜、私は眠れなかった。
閉じた目の裏に、彼の指の感触が何度も浮かんでは消えた。
知らないうちに、唇を噛んでいた。
数日後の朝、娘が外出し、家に彼と私だけが残った。
洗面所から湯を張る音が聞こえた。湯気の匂いが家じゅうに広がる。
私は、どうしてか、足が勝手にその方向へ向かっていた。
戸口の向こうには、曇った鏡と、揺れる湯気。
「どうぞ」と言われた一言で、理性がふっと消えた。
後ろから彼の指が、私の首筋をなぞる。
わずかに濡れた指先が肌に触れ、温度が跳ねる。
全身に鳥肌が立つ。
頬に息がかかる。
わずかに触れた唇の端が熱を帯び、思わず目を閉じた。
その瞬間、彼の胸に背中が触れた。
柔らかく包まれるような抱擁。
それなのに、鼓動は激しく、静けさの中で響き合っていた。
息が混じる。
湯気が頬をなぞり、髪が湿っていく。
「お義母さん」と呼ばれた声が、耳の奥に残る。
その響きに、体がわずかに揺れた。
唇が触れる。
水の中で溶け合うような、長い、静かな触れ方だった。
彼の指が私の頬から首筋へ、そして肩へ――。
触れるたび、何かが壊れていく音がした。
「だめ……」と呟いたはずなのに、その言葉さえ熱に溶けた。
肌と肌の間を流れる空気が、あまりにも近くて、逃れようがない。
罪だとわかっていた。
けれど、その熱を拒む術を、私はもう持っていなかった。
湯の音が遠くに響く。
鏡の奥には、知らない自分が映っていた。
かすかな光の中で、彼の指が私の髪を払う。
そして、沈黙だけが続いた。
……あの夜から、私は彼の姿を直視できなくなった。

