出産してからというもの、腰の痛みが消えなかった。
夜、授乳を終えてベッドに戻るたびにずきずきとした鈍痛が走り、眠るたびに身体が重くなる。
少しくらい我慢すれば治ると思っていたけれど、ある日とうとう立ち上がれないほどの痛みに襲われた。
夫は心配して、知り合いに評判の良い鍼灸院を聞いてきた。「優しい先生らしい」と。
しかし、私はそこで“別の痛みと甘さ”に出会うことになるなんて、その時は思ってもいなかった。
鍼灸院は思ったより新しく、白い壁と木の香りが漂っていて、入り口からは爽やかだった。
でも建物の奥に進むにつれて、空気が妙に重く感じられた。湿り気のある、密室の匂い。
受付を済ませ、呼ばれるまでの数分が妙に長く感じた。
夫が隣にいるだけで緊張が強まり、呼ばれた時には喉の裏が乾いていた。
「どうぞ、こちらへ」
低く響く男の声。
先生は五十代くらいの、精悍で少し日焼けした肌をしていた。目が非常に強く、見つめられるだけで体の奥がくすぐられるようだった。
問診のあと、彼は何のためらいもなく告げた。「服を脱いで、うつ伏せに。」
一瞬夫を見ると、安心させるように頷かれた。
ワンピースを脱ぎ、下着姿になる。肌に冷たい空気が触れ、鳥肌が立つ。
その時、先生の視線を感じた。まるで皮膚の上を指で撫でられるように。
「それも脱いでいいですか?」と聞かれ、思わず息を呑んだ。
「下着はそのままで」と返されたけれど、その言葉もなぜか命令のように響いた。
ベッドに身を伏せる。汗ばんだ背中に、ひやりとした指が触れた。
「強く押しますよ」
ぐっと腰に体重がかかる。痛みと共に、体の中心が熱を帯び始めた。
彼の掌が背骨をなぞり降り、ヒップの上へ。指先が沈み込むたび、奥で蠢く感覚がある。
——これが治療? 違う。わかっている。でも気づくと息が荒くなっていた。
「力、抜いてください。……そう、いい子ですね」
その言葉の優しさに、全身が溶けた。
オイルの香りが部屋に満ち、ぴちゃり、と音がする。
腰の曲線をすべる温かな液体が、太ももへと流れていく。
その動きに合わせて、指が下着の縁を押し上げた。
布越しに、あの場所に指が触れた瞬間、背筋がびくんと跳ねた。
「ここ、すごく張ってますね」
張っているのは、腰ではなかった。
下腹部の奥が火照り、そこから熱い何かが溢れそうになる。
私は両手でタオルを握りしめ、「やめて」と言えないまま、体を沈めていた。
音が変わった。ぬるりと滑る音。
オイルが、秘部に塗られたのだと気づいた瞬間、もうどうすることもできなかった。
「痛くないですか?」
「だ、大丈夫です……」
震える声で答えた私を、先生の手はやさしく包みながら、確実に奥へと誘っていく。
深く、浅く、円を描くように触れ続けられていると、腰の奥でキンとした快感が広がった。
呼吸が合わなくなり、喉が勝手に声を漏らす。
「……そこ、違います」
そう言いながらも、体はその指を求めていた。
あの瞬間のことを、何度も思い出す。
パンティーが太ももまでずり落とされ、彼の熱い掌が腰の奥を押し開いたとき、私はすでに濡れていた。
羞恥で死にそうになりながら、それでも体が弓なりになった。
「もう少し楽にして」
その声と同時に、何か硬いものが肌に押し当てられ、喉の奥が勝手に震えた。
「感じてる」自分を、夫に聞かれてしまうのではないかという恐れが、逆に快感を増幅させた。
部屋の扉の向こうに夫がいる。けれど、私の体の中には別の男がいる。
その背徳が、麻薬のように神経を焼いた。
ピチャ、ピチャと濡れる音が止まらず、腰が動いてしまう。
意志とは無関係に、体が彼を受け入れていった。
ふいに、ぐっと深く押し込まれる。
「あっ……!」声が漏れる。
痛みと同時に、底から湧き上がる快感が支配した。
汗とオイルと体液が混じり、滑る。
彼の手が胸をつかみ、指で乳首を弾くたび、視界が白く光った。
「旦那さん、すぐそこにいるのに……可愛いね」
耳元で囁かれた瞬間、理性は完全に溶けた。
診察台がきしみ、身体が打ちつけられるたび、深く刺さる。
そのたびに「あ、だめ……」と声が漏れるのに、腰は逃げようとしない。
「奥まで当たってる、ここ……感じてるんだね」
唇を噛んでも、喘ぎは抑えられない。
先生の熱が何度もぶつかり、私の中をかき回す。
「イッていいですよ」
その一言で、身体が弾けた。
背中が反り、涙が滲み、喉の奥から名も知らぬ声が溢れた。
終わったあと、シーツに沈む私を見下ろしながら、先生は淡い笑みを浮かべた。
「この腰、しばらく通ったほうがいいですね」
それは治療の話ではなく、契約のように響いた。
その日、自分の下着が床に落ちているのを見つけた時、足が震えた。
けれど、胸の奥には恐怖よりも熱が残っていた。
戻るとき夫に何を言えばいいかわからなかった。
身体の芯に残る余韻が、言葉を飲み込ませた。
「どうだった?」と聞かれた時、私はただ「楽になった」と答えた。
それは、腰ではなく、別の何かの話だった。
その後、私は理由をつけて何度も通った。
先生の指に触れられるたび、前回の記憶が蘇り、身体が先に反応するようになった。
彼は表情一つ変えずに、私の奥を押し広げ、息を流し込む。
「今日はここまでにしましょう」と言われても、まだ終わらない疼きが残った。
もう私は、普通の妻には戻れなかった。
いま振り返れば、あれは浮気でも不倫でもなく、治療という名の堕落だった。
夫が知らないうちに、私は別の男に「女性」として覚醒させられてしまった。
あの部屋の匂いを思い出すだけで、体の奥が熱くなる。
腰痛の苦しみも、背徳の甘さも、全部まとめて——あの指が思い出となって私の肌に残っている。
もしまた痛みが出たら、私はきっと同じ答えを出すだろう。
「先生のところへ行かないと、治らないの」
そう言いながら、再びあの扉を開ける。
それが罪だと知りながら、もう戻れない自分を受け入れて。
女であることの快感を、もう一度感じにいくのだ。
