退屈な午後を埋めるように、私はいつものパチンコ店に向かっていた。
鳴り響く電子音と煙草の匂いに包まれながら、誰にも触れられない時間を過ごす。
それが、私にとっての小さな逃げ場だった。
あの子と目が合ったのは、そんなある日のこと。
若くて、少し生意気な眼差し。
けれど、その目には確かに“女”を見る視線があった。
胸元を少し緩めていた私のせいかもしれない。無意識に、誰かに見られたいと思っていたのだろう。
彼が差し出した缶コーヒーを受け取ったとき、指先がわずかに触れた。
ほんの一瞬なのに、心臓が跳ねた。
――この歳になって、こんな感覚を思い出すなんて。
それから、彼と話す機会が増えていった。
遊技台の後ろで笑い合ったり、LINEを交わしたり。
「今日は来てますか?」
そんな短いメッセージですら、胸の奥が甘く熱を帯びた。
優しさでも恋でもない。ただ、女であることを思い出させてくれる“刺激”だった。
ある日の昼下がり、彼が言った。
「出てないから、ドライブでも行きません?」
どうせ旦那は留守だし、退屈を持て余していた私は、軽い気持ちで頷いた。
助手席から見える景色よりも、隣の彼の横顔ばかり見ていた。
指先がハンドルを握る様子。時折、私の脚へ向けられる視線。
そのすべてが甘い毒になって、全身に回っていった。
「久しぶりにデートしちゃったみたい」
そう笑った瞬間、彼の目に明らかな欲が灯っているのを見た。
気づけば車はホテル街へ。
「冗談よね?」と口にしたのに、声は震えていた。止めようとすればできたのに、私は体を固めただけ。
窓の外に映る赤いネオンの光が、心臓の鼓動と重なっていた。
“ダメ”、そう思えば思うほど、身体の奥が疼いた。
部屋に入ると、静寂。
空気が重く、甘い香りが漂っていた。
近づいてきた彼の体温が頬に触れた瞬間、理性が溶けていくのが分かった。
「息子と同じ年なのよ」
そう言って笑おうとしたけれど、声が掠れた。
その言葉を無視するように、彼の唇が私の首筋をなぞった。
ぞくり――と背筋を撫でる熱。胸の谷間を滑る指先が、布地の上からでもわかるほどに生々しい。
「やめなきゃ…」
そう思って口を開きかけても、息の代わりに吐き出されるのは甘い喘ぎだけだった。
シャワーを浴びたあと、薄暗い部屋の中で、再び腕を引かれた。
背後から抱かれたまま、彼の熱が背中にとろけるように伝わってくる。
「美幸さん…綺麗」
その囁きに、涙がにじんだ。
欲望と安堵が混ざって、もう何も抑えられなかった。
肌が触れ合うたびに、若い体の硬さと勢いに狂いそうになる。
私の脚を開かせて、息を荒げながら深く入り込んでくるたびに、罪の快感が身体を突き抜けた。
「そんなに…されたら…だめ…」
言葉と裏腹に、腰が拒めない。
音が部屋に響く。
ねっとりと濡れる音、肌と肌の打ち合う音、息の乱れ。
そのすべてが私をいっそう濡らしていく。
「中に出すよ」
熱いものが流れ込んだ瞬間、頭の中が真っ白になった。
罪悪感よりも、圧倒的な満たされ方に涙が落ちた。
「あぁ……若いのが……こんなに……」
言葉にならない声を漏らしたまま、彼にしがみついた。
あの夜を境に、私は女として壊れていった。
彼の指が恋しくて、連絡が来ない日には手が震えた。
会えばホテルに直行。触れられただけで、熱がぶり返す。
背徳の味は、怖いほど甘く、離れられない。
そして、その“地獄”が訪れた。
ある夜、息子が酔った友達を連れて帰ってきた。
玄関に立っていたその顔を見た瞬間、息が止まった。
「……和也くん」
息子が「友達」と紹介したその子は、私を何度も抱いた男だった。
すぐに彼も蒼ざめて立ち尽くしていた。
あの一瞬の沈黙で、世界が崩れた。
“終わらせなきゃ”と自分に言い聞かせた。
けれど、その翌日には、また彼とベッドの中にいた。
「罪悪感覚える?」
彼の問いに頷いた瞬間、唇を塞がれた。
キスが深くなるたびに、罪も快楽に変わっていく。
もう、止められない。
「喋ったら許さないから」
私の言葉に、彼は笑って「美幸さんもね」と囁いた。
笑いながら、その奥に確かに火が見えた。
息子の友達。
母親と呼ばれるはずの年齢。
それでも私は、抱かれるたびに若返っていく気がしていた。
彼の中で、私はまだ“女”でいられる。
旦那にも、息子にも見せられない顔を、彼だけが知っている。
もう、戻れない。
壊れていくほど、愛しくなるなんて。
もし地獄があるのなら、私は喜んで堕ちていく。
――彼の熱を感じながら。