あの日、まさか自分が“潮を吹く女”になるなんて思ってもみませんでした。テレビや雑誌で「潮吹き」なんて言葉は知っていたけれど、それは自分には縁のない、遠い世界のことだと思っていたのです。私はもともと性欲は強い方ではなく、むしろ夫との営みは「義務的にこなす時間」になりつつありました。快感よりも「やり過ごす行為」という意識が強く、終わったあとに満たされた経験など、正直ほとんどなかったのです。
そんな私が変わるきっかけになったのは、とある同窓会で偶然再会した年上の男性でした。彼は同じ中学の先輩で、今は都内でバーを経営しているそうでした。目立つタイプではなかったのに、久しぶりに会った彼の堂々とした雰囲気に思わず惹かれてしまったのです。二次会で隣に座ったときのさりげない距離感や低い声で囁かれる言葉に、不思議と身体の奥が熱くなるのを感じました。
その後、二人で抜け出すような流れになり、彼の店に寄ることになりました。照明を落とした薄暗い空間に二人きり。アルコールのせいもあり、緊張と同時に期待めいたものが膨らんでいくのを感じました。彼が私の顎をそっと掬い上げ、目を覗き込むと、次の瞬間には唇を奪われていました。驚くほど自然に、私はそのキスに応えていたのです。
彼の手が私の首筋や肩をなぞり、ゆっくりと胸へと降りていく。服の上から乳首を優しく挟まれると、普段は感じにくいはずの場所なのに、びくんと身体が跳ねてしまいました。自分でも意外なほど、反応が敏感だったのです。
「君、触られ方を知らないんだろう?」
耳元でそう囁かれた瞬間、恥ずかしさで顔が火照りました。長年夫としか関係を持っていなかった私にとっては、その言葉が見透かされているようで、悔しさと同時に妙な昂ぶりを覚えました。
ベッドに押し倒されると、彼は時間をかけて私の身体を撫で回しました。特に下腹部から太腿の内側へ向かう指の動きは、期待と焦らしで気をおかしくしそうになるほどでした。思わず腰をくねらせると、彼が低く笑い「もう濡れてるじゃないか」と囁きました。その声だけで、陰部からじゅわっと熱が込み上げてきて、自分でも信じられないほど潤っていました。
そして、一番の衝撃はそこから。
彼の指先が私のクリトリスを包み込むように触れ、リズムよく撫で始めました。最初は気持ちいいというより、くすぐったい感覚に近かったのですが、次第にビリビリとした快感が全身に伝わり出しました。同時に、Gスポットを探るように指が膣内に侵入してきて、奥の一点を的確に擦り上げられたのです。思わず喉の奥から声が漏れ、太腿を閉じようとするのに、彼はそれを逆に押し広げ、逃げ場をなくしてきました。
「ここが弱いんだな」
言葉と共に指先がぐにぐにと私の内壁を刺激する。次第に膣の奥が熱でパンパンに膨れ上がるような感覚が広がり、どうしていいかわからない焦燥感で呼吸が乱れていきました。腰が勝手に浮き上がり、「もうダメ」と叫びそうになるのに、その刺激は止まらない。
次の瞬間――
パンッ、と自分の身体の中から弾けるような感覚と共に、下腹部から凄まじい圧が解放されました。ボトリと何かが流れる感覚ではなく、水鉄砲が破裂するみたいに、ビュッと液体が迸ったのです。私は混乱して「いや、出ちゃってる…!」と声を上げました。けれど彼は笑顔で「恥ずかしがらなくていい、ちゃんと潮吹きしたんだ」と慰めるように呟き、そのままさらなる刺激を与えてきました。
濡れたシーツが肌に張り付き、何度も何度も液体が溢れ出る。そのたびに私の身体は勝手に痙攣し、涎を流しながら声にならない声を上げていました。頭の中は白く飛び、ただ一瞬ごとに訪れる快感の波に翻弄され続ける。まるで自分の身体が自分のものではないようで、怖いのにやめてほしくなくて、恥ずかしいのにもっと欲しい――そんな矛盾が同時に押し寄せてきました。
気がつくと、私は彼にしがみつきながら必死に腰を振っていました。膣内を刺激する指に合わせて自分から奥を迎え入れ、水音を立てながら繰り返し液体を吹き出してしまう。まるで壊れた蛇口みたいに止まらず、何度も絶頂を繰り返す異常な快感は、それまで経験したどんなセックスとも違うものでした。
「もう…こんなの、知らなかった…」
息も絶え絶えに呟くと、彼は唇に軽くキスを落とし「これから知っていけばいい」と言いました。その言葉に、心の奥がとろけるような甘さと恐ろしい期待が入り混じり、私は完全に彼に支配されていることを悟りました。
それからの私は、完全に別人のように変わってしまいました。夫との行為にも不満しか感じていなかったのに、彼と会うたびに潮吹きを体験し、何度濡らしても足りないほどの快感を求める身体になってしまったのです。最初は恥じらっていたはずの「吹き出す瞬間」も、今ではその瞬間が欲しくて堪らない。シーツを浸す羞恥さえ、快楽の一部になっていきました。
女性として目覚めてしまった喜びと、日常では決して語れない秘密を背負う背徳感。その狭間で揺れる日々は、甘美で危険な沼のように、私を深く沈ませていきました。