会社を辞める前日。
送別会で飲み過ぎた私は、同僚たちの冗談混じりの空気に浮かされていた。隣にいた彼——入社2年目の、少し不器用で真っ直ぐな後輩。あの子の視線が、ずっとこちらを追っていたことに気づいていながら、見なかったふりをした。
でも「もし、もっと早く出会ってたら」という言葉に、少しだけ鼓動が跳ねた。きっと酔っていなければ笑い流せたのに。
気づけば、終電を逃し、そのまま彼の車に乗っていた。
助手席で冷たい缶を持ちながら、「結婚前にデートして下さいよ」なんて言われた時、心のどこかで“この夜で終わりなら”と思ってしまった。
そんな甘えが、こんなことになるなんて——。
ラブホテルの部屋。
ソファに並んで座ると、彼の視線が痛いほど真っ直ぐだった。
「もう、キスしていいですか?」
その言葉が出た瞬間、胸の奥で何かが溶けた。私もずっと、理性の奥底で望んでいたのかもしれない。
唇が触れ合う。最初は優しかったのに、次第に舌先が絡み合い、呼吸が熱く混ざっていく。
抱き寄せられた瞬間、胸の奥がギュッと締め付けられた。
気がつけば、ベッドへ移動していた。
バスローブの紐をほどいて肌を晒すと、彼の目が驚きと欲に染まる。
そっと胸に触れられたあと、口づけが下へと降りていく。
「優しくしてね」
自分でも信じられないほど、甘い声が零れた。乳首に舌が当たるたび、息が乱れ、思わずシーツを握りしめてしまう。
彼の指がショーツの上をなぞり、やがて中へ。
「ダメ…」と絞り出した声は、拒絶よりも期待の方が強かった。
彼の顔が太腿の間に沈んでいく。
「やだ……そんなの……」と口では言いながら、腰が逃げるように揺れてしまう。
舌が触れる。温かく、湿った感触が敏感な部分をなぞり、すぐに息が詰まった。
「ああっ……そこ、だめ……」
布団にこもる熱と自分の吐息が重なって、頭の中が真っ白になる。
指先が布団を掴み、体はもう言うことをきかない。彼の舌が、吸い、舐め、少しだけ噛む。
「いやっ、あぁ……あっ……」自分でもどんな声を出しているのか分からなかった。
身体の奥が緩んでいく。
でも止まらない。彼の舌は、私の奥の動きを感じ取るように、焦らすように蠢いてくる。
「大丈夫?」と聞かれるけれど、答えられない。
次の瞬間、体勢が変わる。
彼が私の上に覆いかぶさる形で、顔が下に。
口元には彼の熱くなったものがあって、私の唇が自然と触れていた。
最初は戸惑った。でも、吸い付いた瞬間、彼の体がびくりと跳ねたのが伝わってきて、自分の中の何かが反応した。
「……気持ちいい?」と小さく呟くと、彼は唇の隙間から低く甘い声を漏らした。
彼の舌は、私の中を舐めながら震えている。
69の体勢。互いに支配と快楽を交互に与え合う、不思議な感覚。
自分の舌先で彼を感じるたび、同時に自分の下半身も震えてしまう。まるで、その震えが彼の動きに伝わって、二人の体が同じリズムで揺れているようだった。
「んっ、だめ……そこ、もう……あっ」
奥の柔らかい部分を舌で突かれると、全身が跳ね、腰が浮き上がる。
唇が離れてしまいそうになるのを、喉の奥で必死に堪えた。
汗が背中を伝い、息が浅くなる。
どちらが先に限界を迎えるのか分からない。
彼の舌が私の中を舐め上げ、私はそのまま彼を口で包む。
熱と湿気が絡み合って、喉の奥まで震える。
「もぉ……やらしいね……」と言いながら、自分の声が甘えているのを自覚した。
次の瞬間、背中に手が回り、腰が強く押し付けられた。
その刺激で、体の奥が弾けたように熱くなり、目が滲む。
「だめっ……もう……」と呟いた瞬間に、彼が奥を舐め上げる。
視界がふっと白く霞んだ。
その間も、私は口の動きをやめられなかった。
彼の息づかい、脈打つ感覚、指が髪を絡ませる仕草——全部が愛おしいと思った。
結婚を控えた女が、後輩に舐められて感じている。
背徳も羞恥も全部混ざって、それでも心の中の“女”が満たされていく感覚に溺れていた。
少しして、彼が顔を上げる。
唇の端に私の濡れた熱を残したまま、優しく微笑んでいた。
その笑顔を見て、胸が痛くなった。
「……もう、やめよう?」と自分の口で言いながら、すぐに涙が出た。
この人に惹かれてはいけない。
でも、あの一瞬——結婚前の一夜だけ、私は確かに“女として求められた”と感じた。
誰にも話せない秘密。
唇に残る彼の匂いと舌の記憶だけが、今も消えずに残っている。
それが、私の“最後の思い出”になった。

