あの人のことを、最初は“ちょっと気になる同僚”くらいにしか思っていなかった。
仕事中は落ち着いていて、私の言葉をよく拾ってくれる人。なのに、目が合うといつも視線の奥が熱い。軽い冗談の合間に、あの眼差しを向けられるだけで、肌の奥がかすかに反応するようになっていた。
私には、夫がいる。
だけど、抱かれるたびに虚しくなる。濡れもしないまま終わる夜が増えて、体が忘れていくのが怖かった。だから、彼から「一緒に飲もう」と誘われたとき、心のどこかで答えは決まっていた。
薄暗い店でワインを重ね、笑いながら何度も手が触れた。指先が触れるたび、プツンと理性を切る音がした。
「ナツコさん、意外と手、冷たいんだね」
そう言われて、見られていることが嬉しくなった。
店を出る頃には、足音さえふらつくのに、身体の中は火がついたみたいに熱かった。
ホテルの部屋に入ってシャワーを浴びると、湯気に混ざって心臓の鼓動が強くなる。鏡を見ると頬が赤く、唇だけが不自然に艶やかだった。
タオルで髪をまとめ、部屋に戻るとベッドの上で彼が私を見ていた。
目が合った瞬間、もう逃げられなかった。
唇を重ねると、思っていたより柔らかくて、息が絡み合った瞬間にゾクリと震えた。
服が肌を離れる音。そのままベッドに押し倒され、彼の手が胸を包んだとき、声が漏れそうになる。
「思ったより、形キレイだね」
その言葉ひとつが、今までの誰よりも深く刺さった。
彼の身体が近づくほど、匂いと体温が絡みあう。
息が当たるたび、腹の奥で何かが疼いた。
彼の指がゆっくりと私の足を開き、顔を近づけてくる。けれどそのままではなく、わざと触れずにすぐ離れる。
舐めたいときに舐めない――その絶妙な間が、まるで心を弄ばれているみたいで、気づけば自分から腰を動かしていた。
そして、唇が下に触れた瞬間、頭の中が真っ白になった。
焦らすように、少し吸っては離し、舌先で軽く撫でては止める。そんなことを1時間も続けられた。
快感は上がりきらず、でも絶えず波のように押し寄せ、息だけが荒くなる。もうどうにかなりそうだった。
視界が滲み、喉がからからになったころ、彼が急に顔を上げる。
「もう、限界……」
その低い声を聞いた瞬間、体の奥がきゅっと締まった。
次の瞬間には、体を押し上げられ、熱いものが一気に入ってくる。
「はっ……あっ……!」
喉の奥から勝手に声が漏れる。
打ちつけられるたび、奥の奥を突かれて、息が続かない。
視界が震え、まぶたの裏まで光が走る。体が勝手に波打ち、腰が跳ねる。
「なっ、なんで……止まらない……」
言葉にならない声と、濡れた音。自分の膣の奥から、温かい液体があふれてくる。
それが潮だと気づいたときには、もう止まらなかった。
しぶきが彼の胸や顔にかかるたび、申し訳なさと、誇らしさが入り混じる。
「すごい……止まらないんだね」
彼が笑いながら言う。その声を聞くだけでまた震える。快感が脈打って、体が彼に貼りついたまま離れられない。
何度も、体を返され、突かれ、濡れて、また弾けた。
時間の感覚なんて消えた。ただ、目の前の男に壊されていくほど、心が満たされていった。
終わったあと、シーツに横たわっても声が出なかった。
全身が熱を残したまま、小さく震えていた。
彼が優しく笑って「生きてる?」と言っても、力が抜けて頷くだけ。
それなのに、喉の奥ではまだ息を吸うたびに震えが残っていた。
数分後、私がようやく身体を起こしたとき、床にもベッドにも水たまりのような跡。
自分がどれだけ濡れていたのかを見て、恥ずかしいのに笑えてきた。
「初めてだったんだ」
そう呟いたら、彼はただ黙って唇を重ねてきた。

