緊張感の途切れる昼下がり。
とある中学校の一年生の古文の授業中に、
辻原文太(つじはらぶんた)は小さなため息をついた。
昼食後のこの時間帯はいつもやる気が出ない。
まあ、彼の場合、全ての授業において熱意を抱くことが無いのだが。
(早く放課後にならないかな)
文太の席は、黒板から最も遠い後ろに位置しており、なおかつ窓際である。
彼は視線を左に向けて外の風景をぼんやりと眺めることにした。
代わり映えの無い景色。
少しずつ気温が上がってきた六月の中旬の空は、やや曇っていた。
……傘を持ってきていないことを思い出し、余計に憂鬱な気分になってくる。
「こら、辻原!授業に集中しろ!」
古文担当の教師が教壇の上から一喝する。
「あ、は、はい、すみません……」
クラスメイト達の口からクスクスという笑い声が聞こえてくる。
それはあまり温かい意味を持ってはいなかった。
文太にとって、それは”嘲笑”だった。
この教室内に、文太の友達はいない。
では、他のクラスにはいるのかというと、そうでもなかった。
彼は孤独だった。
顔立ちがあまり良くなく、勉強にも運動にも秀でていない。
彼には何一つ誇れるものが無かった。
加えて、人付き合いが苦手なので、自然と彼の周りには人が集まらないのだった。
苦痛でしかない授業が終わると、荷物をまとめてさっさと教室を後にする。
部活に所属しているわけではないので、放課後になれば学校にいる必要が無くなる。
彼にとってここは居心地の良い場所とは言えない。
一秒でも早く立ち去りたいというのが本音だった。
(ああ、やっと終わった……)
一日の疲れを感じながら、とぼとぼと通学路を歩く。
代わり映えしない風景を眺めていると、下校する時はいつもそうなのだが、
彼の頭が――――彼自身はそれを望んでいないにもかかわらず――――さっそく今日の出来事を反芻し始めた。
「ねえねえ、昨日のドラマ観た!?主演の松原クンが超カッコ良かったよね~!」
「オレ、B組の新崎さんにコクっちゃおっかなー!」
「サッカー部の伊沢先輩って、彼女さんいるんだってぇ。マジショックぅ~」
過去の時間から聞こえてくるのは、クラスメイトの話し声だった。
誰も彼も、男女関係のことで熱心になっている。
身体が急激に成長を始める中学一年生の少年少女達は、そういったことに興味津々なのだ。
文太は彼らの会話を聞くのが嫌いだった。
なぜかと訊かれても、上手く答えられない。
強いて言うならば、”自分が関与できないから”かもしれないと彼は思った。
(僕には関係ない事だ)
自分ほど長所を持たぬ人間が、果たしてこの世にどれほど存在しているのだろうか。
そしてその人々は、自分と同じように、恋愛に関与せずに生きているのだろうか。
文太は、将来の自分の姿を思い浮かべてみた。
きっと、妻も子供もいない。
寂しい一生を送るに違いない。
そうとしか思えなかった。
今まで、一度も女性に好かれた経験など無い。
これからも女性とは無縁の生活が続くのだろう。
(もしも僕に、恋人がいたなら……)
遠くの夕焼け空を見つめながら、空想を広げる。
スタイルが良くて、優しい人。
料理が得意ならなお良い。
毎日、僕を起こしてくれて、僕のために弁当を作ってくれるんだ。
僕は一生懸命働いて、彼女の待つ我が家に帰る。
そして、夜は、夜は……!
と、そこへ――――チリンチリン!
後方からの音に夢想を掻き消され、慌てて後ろを振り返る。
それとほぼ同時に、一台の自転車が文太を追い越していった。
いきなり現実に引き戻された文太は、
もう一度架空の女性を頭の中に作り上げようとは思わなかった。
なんだか、空しい気分になってしまったのだ。
(早く帰ろう)
嫌な思いを振り切るように、彼はその足を速めた。
「あら、文太君じゃないの。おかえり!」
住宅が密集している通りの十字路に差し掛かった時、
半透明のビニール袋を右手に提げている大人の女性に声をかけられた。
「あ、どうも。紫織さん、こんばんは」
文太は少し元気を取り戻したような笑顔で挨拶をした。
女性の名は香山紫織(かやましおり)。
辻原家の隣に住む二十八歳の主婦だ。
夫は海外へ単身赴任しており、紫織は小学一年生の娘と二人きりで暮らしている。
(ああ、綺麗だなあ、紫織さんは……)
優しい性格が表に滲み出たような柔和な顔立ち。
すっきりとした輪郭に、栗色のロングヘアー。
毛先には、軽くカールがかけられている。
身体にぴったりと張り付くような薄い生地のTシャツとスリムジーンズは、
彼女のボディーラインをはっきりと浮かび上がらせていた。
全体的にほっそりとしているのだが、胸と尻だけは例外的に大きく突き出ている。
それらが持つ美しい曲線は、括れたウエストと組み合わさってさらに魅力を増しているように思えた。
いつまでも観賞していたいと思えるものだったが、ジロジロ見て良いわけはない。
邪な思惑を感じさせないように、注意しながら視線を送った。
「ねえ、今日は久しぶりにウチで一緒に晩御飯を食べましょうよ。一人で食べるのも寂しいでしょ?」
笑顔で紫織が提案してくる。
文太の母親は彼を出産した直後に他界しており、父親はこの春から遠方へ単身赴任していた。
そういうわけで、彼は自宅で一人暮らしをしている。
隣同士の辻原家と香山家は元々家族ぐるみで仲が良かったため、
文太が一人になってからは紫織が彼を積極的に食事に誘っているのだった。
「はい。それじゃあお邪魔させてもらいます」
満面の笑顔での二つ返事だった。
香山家に招かれることは文太にとって大変嬉しいことである。
モテない上に口下手な彼がまともに交流できる女性は紫織だけだった。
それに、彼は同世代の女性にあまり関心が無いのだ。
(紫織さんと比べると、クラスの女子なんか、ただギャーギャーうるさいだけのガキだよな……)
ふわり、と甘い匂いが鼻腔をくすぐる。
二人並んで歩いているうちに漂ってきた、隣の女性の芳香だった。
文太はこの匂いが好きだった。
年少の女子には無い、濃厚な大人の女の匂いだ。
(結婚、か…………)
もし一緒に暮らすなら、紫織のような女がいい。文太はそう思った。
「今夜はね、ハヤシライスよ。楽しみにしててね」
「はい。期待してます」
夕暮れの道を、二人で帰る。
一人で帰るよりも、ずいぶんと太陽が優しく見えた。
「それでね、ネットしてたら急に電源がプチッと切れちゃって……」
香山家の台所は、夕食の香りに包まれていた。
テーブルの上には、ハヤシライスとサラダとコーンポタージュ。
ハヤシライスもコーンポタージュも、文太の好物だ。
「う~ん。何か変なページを開いたんじゃないですか?ブラクラの可能性があると思うんですけど」
文太はパソコンに詳しいので、機械に疎い紫織の相談を受けることがよくあった。
今も、料理を口に運びながらパソコンの不具合について談じている。
そこにはもちろん、紫織の娘である小学一年生の直子もいた。
もっとも、彼女はまだ幼いので、今の彼らの会話は難しすぎて理解できないようであったが。
「ブラクラ、とかそういうのはよくわからないんだけど……。とにかく、直接視てもらえるかしら?」
「いいですよ。それじゃあ、この後すぐにでも」
二人で、二階への階段を上がっていく。
香山家のパソコンは夫婦の寝室に配置されている。
この部屋に入るのは初めてではないが、やはり緊張してしまう文太だった。
中学一年生の彼の性知識は、主にインターネットで得られたものだった。
子作りがどういった行為であるのかを、彼は既にある程度知っている。
それゆえ、どうしてもこの部屋での香山夫婦の夜の生活を想像してしまうのだ。
「たぶん、直せると思いますよ」
「そう、良かった。それじゃ私は洗い物をしてくるから、後はお願いするわね」
上機嫌でそう言って、紫織は一階へ下りていった。
「これでよし、と」
復旧作業は思ったよりも早く完了した。
急に手持ち無沙汰になってしまった少年は、
なんとなくキョロキョロと部屋の中を見回した。
部屋に入って右奥にあるのが夫婦用のダブルサイズベッド。
その右横にあるのがパソコン。さらにその隣には、
紫織が使うであろう大きめの鏡台があった。
それを眺めながら、今ここには無い熟女の姿を想像する。
ベッドに背を向けるようにして鏡台の前に座り、
美しいブラウンのロングヘアーをブラッシングする寝巻き姿の大人の女。
そして髪の手入れを終えた彼女は、
くるっと振り向いて優しく微笑んでくれるのだ……。
(ああ、いいなあ。旦那さん、いいなあ……)
そんなことを思いながら、チラッと横目で鏡台の隣の木製の洋服ダンスを見る。
あの中には、紫織の衣類が入っているはずである。
(紫織さん、どんな下着を穿くのかな……)
不謹慎であると理解してはいても、いったん始まった妄想はもう止まらなかった。
清純そうな紫織にはやはり白が似合うだろうか、いや、それともピンク?
様々な色が文太の脳内をぐるぐると駆け巡っていく。
彼は女性の下着についてあまり明るくなかったので、その形状を詳細に想像することはできなかった。
しかしながら、自身の股間を昂らせるには充分だったようで、既にズボンの前方はパンパンに張っていた。
そうなると、邪な考えが浮かんでくる。
息を止め、周囲の音をうかがってみた。
下の階の方に意識を集中する。
未だ、紫織が二階に上がってくる気配は無い。
(ちょっと見るだけだ。ちょっと見るだけだから、いいんだ、うん)
自分を納得させると、彼は自分の手を、
四段ある洋服ダンスの上から二番目の引き出しの取っ手にかけた。
余計な音を立てないように、恐る恐る自分のほうへ引っ張っていく。
すると、そこには意外な光景が彼を待っていた。
(えっ……!?すごい………………!!)
原色かと思えるほどに鮮やかな赤、青、黄。
朝露を付着させた草原のような緑。
高貴さと妖しさを秘めた紫。
闇夜を切り取ったかのような黒。
思春期の少年を惑わせる魔性の色彩が、そこにあった。
(こっ……こんな派手なパンツを穿くのかっ、紫織さんは……!)
きちんと配列された色の数々が行儀良く彼を迎える。
文太は心臓の高鳴りを感じながら、その中の一つにゆっくりと手を伸ばしてしまっていた自分に気付いた。
見るだけだと決めていたが、文太の脆弱な理性は下着を目にした瞬間吹っ飛んでいたのだ。
(べ、別に盗るわけじゃないし……後でちゃんと戻しておくから、い、いいだろ……)
彼が手に取ったのは、一際目を引いた真紅のショーツ。
シルクの表面は複雑な装飾が施されており、保温などの基本的な下着の機能以上のものを彼に感じさせた。
さらに彼を驚かせたのは、その形状だ。
臀部を覆う役割を持つはずの部分はかなり小さめに作られており、
それはいわゆる”Tバック”と呼ばれているものに違いなかった。
中学一年生の文太には刺激が強すぎる下着。
同じタンスに収納されている他の下着も、同様の装いで彼を驚かせるのだろうか。
(…………いけない……いけない………………………………でも…………)
燃えるように赤いショーツを左手に持ち、空いた右手をそぉっと引き出しの中の下着へと近づけていく。
なんという恥知らず。なんという痴れ者。自身を蔑む言葉が脳内に無数に現れる。
しかし、少年の欲望はそんなものでは止まらなかった。
指先が、ラベンダー畑を小さく濃縮したような紫色の下着に触れる。
と、その時だった。突然、寝室のドアが勢い良く開いたのだ。
「――――――――わああああぁぁぁぁぁぁっっ!?」
「……っ!ちょっと、なにやってるの!」
怒声。
それはそうだ。
引き出されたタンス。
彼の手にはショーツ。
無罪を主張できる状況ではない。
この部屋の主は、今まで彼に見せたことの無い鬼気迫る表情で仁王立ちしていた。
興奮のあまり周囲への警戒が疎かになっていた愚かな少年は、咄嗟の弁解もできずに金魚のように口をパクパクさせるだけだった。
「で、どういうことなのか説明してくれるかしら?」
香山家宅の一階にある和室で、二人は向かい合って正座していた。
紫織は腕組みをして目の前の少年をじっと見つめている。
文太は目を合わせられずに俯いておろおろするばかりだ。
「それは、その……ええと、あの…………」
「はっきり言ってくれなくちゃわからないわよ」
「ううぅ………………」
羞恥でこれ以上ないほど赤面している文太は、
有益な意味を持たない言葉の羅列を口から漏らすばかりで一向に要領を得ない。
「ほら、怒らないからちゃんと言ってよ」
そう言われてやっと、少し緊張が解けたのか、文太はおどおどしながら言葉を紡いでいくのだった。
「あ、ええと、し、下着に……」
「興味があったのね?見てみたかったのよね?」
「そ、そうです……」
「だからタンスの中を調べた。誰かに命令されてやったことじゃないのよね?」
「は、はい。すみませんでした」
観念し、罪を自白する。
彼の表情は諦めの色で染められていた。
(ああ、もうだめだあ……全部終わった……)
意気消沈する少年。
しかしながら、紫織の口から出た言葉は予想外のものだった。
「……それならいいのよ」
「はひっ!?」
思わず、素っ頓狂な声を上げてしまった。
何が「いい」というのか。
性衝動に突き動かされた物色行為に何の肯定要素があるというのか。
文太には理解不能だった。
「私はね、君がイジメっ子とかに強要されてやったんじゃないかと思ってたの。
こんなこと言うと失礼だと思うけど、文太君って気が弱そうでイジメられそうなタイプでしょ?
だからそういうことなんじゃないかなーって心配したんだけど、違うならいいわ」
「え、ええっと、でも僕……」
あれだけのことをした自分を、無罪放免にしてくれるということなのだろうか。
果たして、そんな夢のようなことがあっていいのだろうか。
いや、これはひょっとして夢の中の出来事では。
それとも、自分はとうとう現実と妄想の区別が出来ない人間になってしまったのか……。
そして、自分自身の正気を疑い始めた少年を現実に引き戻すように、人妻は真意を語り始めた。
「いいのよ。見つけた時はびっくりして怒鳴っちゃったけど、君ぐらいの年頃の男の子なら女性に興味を持ってて当然なんだから。私はむしろ、嬉しく思ってるくらいよ」
「う、嬉しい、ですかぁ……?」
文太は驚きのあまり顔を上げた。
ああ、もう何がなにやら。
紫織さんってこんな人だったっけ……?
「ええ。だって君、なんとなく現実の女性よりも漫画とかアニメに出てくる女の子を好きそうじゃない?そういう妙な人達とは違うんだなーってわかって、安心したのよ」
文太は一瞬自分の心の内側を覗かれたような気持ちになった。
図星だったのだ。
優しさの欠片も無い三次元の女よりも、自分の脳内で都合良く補正できる二次元の女のほうがずっと素晴らしいじゃないか。
紫織とその娘の直子という例外はあったものの、毎日そう思って生きてきたのだ。
二次元愛好家達への偏見はあまり気持ちの良いものではなかったが、
しかし、紫織に気にかけてもらっていたという事実は素直に嬉しいと思えた。
(というか、ニジオタって世間じゃ病人みたいに思われるのが普通なんだよな。紫織さんがそういうふうに悪く思うのも当然か……)
「……で、ここからが本題なんだけど」
少しだけ冷静を取り戻した文太に、紫織は話を切り出した。
心なしか、顔がうっすら赤くなっているように見える。
「君、大人の女の人に興味があるわけよね?」
紫織は恥ずかしそうに目を横に逸らしてみせた。
一体、何を言おうとしているのだろうか。少年には全くわからなかった。
「その…………もし……も、もしもだけど、あの……」
膝の上で組まれた手の指がせわしなくと動いている。
躊躇しているのだろう。
こんなにも含羞の色が濃い紫織を見るのは初めてで、文太は新鮮な感覚を覚えた。
「……お、教えてあげてもいいのよ、私が」
「え?」
「私が、文太君に、女の人の事を教えてあげるって言ってるの!」
「え」
「せ、セックス、したいんでしょ?」
「………………………………………………………………」
沈黙。
気まずい沈黙。
まさか、日頃付き合いのある隣家の子持ち人妻の口から、”セックス”という単語が飛び出てくるとは。
ぽかんと口を開けたまま、少年は思考停止してしまった。
「どうなの?私と、したくない?」
追い討ちをかけるように、上目遣いで紫織が迫る。
文太の心が用意した返事は、実に本能に優しいものだった。
「うっ……うあっ……はあ、はあっ……!」
午後十一時半。
夜の寝室に、少年の喘ぎが浮かんでは消える。
ここは香山家の夫婦用ダブルサイズベッドの上だ。
幼い直子を寝かしつけた後、紫織は一度帰った文太を再び家に招いた。
今はお互いパジャマ姿で向かい合う形で接近しているのだが、
文太はズボンとトランクスをずり下ろされた状態だった。
紫織が脱がしたのだ。
あらわになった股間には、彼の年齢から考えるとやや大振りな突起が元気良く立ち上がっていた。
包皮が余っているようで、陰茎の表面にはシワが寄っている。
そしてそのカワッカムリのペニスには、細長く美しい指が絡んでいた。
白くしなやかな右手が上下に行ったり来たり。
包皮が亀頭に被ったかと思ったら、すぐ剥かれる。
その繰り返しで、少年の先端は痺れるような愉悦を感じさせられていた。
「うあっ、ううぅっ!」
「感じるのね?ここがいいのね?ふふっ」
しゃべれば顔に息がかかるほどの至近距離で、艶かしい声色を聞かせてくる。
紫織はまるで長年修練を積んだ娼婦のように、無経験の少年を圧倒していた。
その手つきに迷いは一切無く、器用に勃起を責め立てる。
文太には気付けなかった事なのだが、紫織は少年がすぐに終わってしまわないよう、手加減して楽しんでいた。
「すごぉい……こんなにピクピクしちゃってるわぁ。なんて可愛いの……」
セックスは人妻の十八番である。
紫織も人妻なのだから、ある程度のことは文太にも予想できた。
しかし、こんなにも淫靡な女性だったとは。
普段の彼女とは似ても似つかない妖しい雰囲気が感じられた。
全く色気を感じさせないピンク色の普通のパジャマに身を包んでいるのが不釣合いに思えるほどに。
(うっ……すっ、すごいぃぃっ!自分でするのと、ぜんっぜん、違うよぉぉぉっ!!)
少年は背を反らせ、天を仰ぐようにして必死に快感と闘っていた。
小学四年生の頃に覚えたオナニーで、彼は手淫の気持ち良さを充分知っていたつもりだったのだが、しかしこれは別物だった。
自分の手と他人の手が、これ程までに快感度に大差を生じさせるものなのか。
一体、今までしてきた自慰行為はなんだったのだろうか。
そんなふうに思えるほど、隣家の人妻による手コキ責めの気持ち良さは桁違いなのだ。
「ほら、もう出そうなんでしょ?出しちゃいなさい、遠慮しないで」
紫織は強張りを扱くペースを速くし始めた。
生まれて初めての抗えぬ性感に翻弄される文太。
自慰ならば快楽を自分で制御できた。
しかし、これは違う……!
無慈悲な魔手は他人の葛藤などお構い無しに性刺激を叩き込んでくるのだ……!!
性なるマッサージによって先走った透明な汁が、熟女の手を濡らしている。
それが文太には妙にエロチックに見えた。
沸き起こる射精への衝動は、今にも暴れだしそうなくらい高まっている。
「でっ、でっ、出る!出ますっ!!出ますぅっ~!!!」
情けない裏声と共に、弱冠十三歳の肉茎は限界を超え、勢い良く白い内容物を吐き出し始めた。
激しい絶頂感に身を震わせ、ビュクビュクとスペルマを噴出し続ける彼の顔は、実にだらしなく呆けていた。
「ふふふっ、気持ち良かったかしら……?」
白いマグマの噴火は二十八歳の熟女の右手をたっぷりと汚した。
彼女は感触を確かめるように――――もしくは愛おしむように――――指で白濁液を弄ぶ。
なんて淫靡な戯れ。
「はっ、はいぃ、よ、よかったれすぅ……」
このまま眠ってしまいたいと思えるほど彼は疲弊していた。
初めて手コキをしてもらえたというのは嬉しかったのだが、極度の緊張感は肉体を大いに消耗させたのだ。
しかし、夜のスイッチがオンになってしまった淫妻は、
彼に休む暇を与えるつもりなど無いとでも言うかのように、すぐに次の行動に出た。
パジャマのボタンを上から外していき、前部分を露出させる。
ブラジャーは無かった。布地の間からは、たっぷりと肥大したHカップの双乳が覗いている。
「じゃあ、こういうのはどうかしら……?」
くすくすっと笑いながら、急速に萎んでいく肉茎を自分の乳房で挟む。
そして、顔をソレに近付けて――――
「はうぅっ!?」
イッたばかりの突起を刺激され、くすぐったいような感覚に襲われる。
(なっ……ええええっ!?)
紫織は大きな胸で挟んだペニスの先端を、舌でペロペロと舐め始めたのだ。
しかも、ただ舐め回しているだけではなかった。
口内の唾液を積極的に垂れ流し、精液まみれの陰茎をさらにグチョグチョに汚していく。
そして、胸を擦り付けるようにしてサオの部分をイジめてくるのだ。
「うああっ、ううっ、はあっ……!」
二十八歳の人妻による、至高のパイズリフェラ。
文太は普段から紫織の巨乳を気にしていた。
いつか、あの豊満なバストを思う存分揉みまくることができたら。
ああ、ずっと憧れの存在だった二つの果実は、
今、自分のペニスを右から左から圧迫して責め苛んでいるのだ……!
(なんて……なんてイヤラシイんだ………………紫織さん……!)
その興奮はすぐに末端へと充填され、生殖器が覇気を取り戻した。
「うふふっ、やっぱり若いのねぇ。ステキよ、文太君……」
硬くなった剛直へと、うっとりした表情を浮かべてみせる。
少年の名前を呼びながらも、意識は彼の股間に集中しているようであり、
まるでイチモツと会話しているかのように文太には思えた。
ふと見れば、彼女の乳首は健康的な美しいピンク色だった。
何者にも汚されていない純真さを感じさせつつも、それは確かな淫靡さを醸し出していた。
「――――あおぅっ!」
乳突起に見とれてボーッとしていた少年の意識を呼び起こすように、強い痺れが下半身を襲ってきた。
紫織が鈴口に舌をねじ込んできたのだ。
柔肉に挟み込まれた剛肉が、もう堪らないとばかりにヒクヒク脈動する。
それに敏感に反応した年上の女性は、目を細めて不満そうに呟いた。
「ええっ、もうイッちゃいそうなの?情けないわねぇ。男の子でしょ、二回目なんだから、もっと頑張りなさい、ふふふっ」
紫織の揶揄に対しては、返す言葉が無かった。
どうしてだろう、むしろ、もっと言って欲しいとさえ思えた。
屈辱を感じれば感じるほど、文太の性感は鋭敏になっていくようだった。
(ぼ、僕ってこんなに変態だったんだ……!)
マゾヒスティックな快楽が、少年の身を焼いてゆく。
普段から親交のある隣家の住人に見下される屈辱感。
おそらく、紫織だからこそ許せるのだ。
もしもこれが同じクラスの女子ならば、同様の反応をしていただろうか――――いや、していないはずだ。
信頼の置ける相手だからこそ、その信頼を裏切るように悪態をつかれても構わない。
ああ、これは大いなる矛盾だろうか?
もはやどんなふうに踏みにじられても逆に快感となりそうで文太は少し恐怖を感じた。
「うっ……くぅっ…………はあ、はあっ……………………!」
「だらしない顔しちゃって、よっぽど気持ち良いのねぇ」
紫織も少年のマゾ性に気が付いたのか、積極的に言葉で嬲ろうとし始めた。
圧倒的なボリュームの乳果実、繊細に動き回る舌先、そして艶かしい声色で紡がれる言葉責め。
それら三要素が混在となり、相乗効果で身悶えするほどの快感を与えてくる。
「ああ、もう耐えられないの?しょっぱいお汁をこんなに溢れさせちゃって……」
二十八歳の子持ち人妻は、まるで食事をするかのように平然と肉竿を舐めしゃぶっている。
それが少年にとっては信じ難いことであった。
排泄をするための穴をこんなふうに口でいじくりまわすなんて、自分にはとてもできそうにない。
文太の思考の中に、香山夫婦の夜の営みの様子が浮かんだ。
紫織は夫とする時も、こんなふうに男を楽しませているのだろうか。
夫は、紫織の排泄孔を愛撫しているのだろうか。
望めば毎日のように紫織と愛し合うことのできる立場の夫に、文太は嫉妬した。
眼前では、唾液と精液と先走り汁にまみれた劣情ソーセージを、
柔らかな大型美白パイが包み込んで押し潰すように刺激していた。
年季が入っているその動きを見れば見るほど、この部屋で日常的に行われていたであろう夜の営みを想像させられる。
悔しさを噛み締めながら、文太は股間を直撃する衝撃と闘っていた。
腕利きの娼婦まがいの淫攻に、少年は「ひぃ、ひぃぃぃっ」と女々しい声を上げ続けている。
「あらあら、もう限界なのね。もういいわ、ふふふっ、いつでも出していいわよ……!」
「あっ、はっ、はいぃ~!イキますぅっ!ああぅあぁぁぁっ――――――――!」
彼の絶叫と共に、内部を熱液が駆け抜ける。
「きゃっ!」
紫織は短い悲鳴を上げた。
二回目とは思えないほど大量に吹き上げた白濁が、勢い良く彼女の顔面を直撃したからだ。
「はぁ、はぁ…………っ、ごっ、ごめんなさい!」
「いいのよ。若いっていいわね。二回目なのにこんなに濃いなんて……」
妖しく微笑みながら、顔に付着したスペルマを指で掬い取り、また前のように指で弄び始めた。
そしてその指を口元へ近付けたかと思うと、なんと舌で舐め出したではないか。
(えっ……ちょっ……!?)
「うふふ、文太君の、おいしいわ…………」
それは淫靡な食事。
行儀の悪いその摂食は少年の目には毒とも言えるほど妖艶だった。
今の紫織なら、胸に付いている汚濁液すら美味しそうに口に運んでしまうだろう。
そんな人妻の様子を間近で見ていると、少年の中に小さな疑念が生まれた。
いや、正確には、それは紫織に誘われた時に生じたものだった。
そして文太は、胸の中でしこりのようになってしまった濁った思いを、小声で呟き始めた。
「どうしてですか……?」
「え?」
「どうして、こんなことしてくれるんですか……?」
文太は、視線を下に向けたまま、少し大きな声で続けて言った。
「僕は、何にも無い男です。勉強も運動もできません。見た目だって最低クラスだと思います。…………そんな僕に、どうしてこんなことをしてくれるんですか」